「クリーニング工の夜」馬野ミキ
はじめて職長を任された浦和のマンションの最終日は
メンバーが総出で来た
最底辺の孫請けの ひ孫のような うちの会社は
自前の脚立すらなく
人数分の脚立を電気屋さんや設備屋さんに頭を下げて都合してもらい
計画通りに進むことはない
あらゆる職人たちの
おのが満足する
こだわりの最後の作業を終えて
至福の一服を吹かし
そんな時代もあったねと笑い
シーマやハイエースに乗り込んだ後
宙のほこりを写す
投光器の光りのなかで
クリーニング工の夜は始まる
引き渡しの期日はどうしたって動かない事実だ
自分より年上の人間や
経験の長い先輩を、仕切る
本当は分からなくたって迷ってたって、俺が仕切らなくてはならない
職長だから